バンディクートはオーストラリア固有の小型有袋類である。彼らは虫や獲物を捕食する種特有の歯列と、カンガルーやワラビーのような草食動物特有の後肢を有する。第4指が大きく第2指と第3指が癒着していてひとつに見え、第1関節と爪だけを自由に動かせる。
これらの身体構造上の特徴からすべてのバンディクートは、もともとひとつの科に分類されていた。しかし現在はブタアシバンディクート(Chaeropus ecaudatus)は、独立した種とされている。それは、ほかのバンディクートとかなり異なった形状をしているためであるが、最近の分子レベルでの検証がこれを裏付けている。
ブタアシバンディクートの剥製@パリ国立自然史博物館(画像をクリックで拡大表示)
ブタアシバンディクートの肢は、非常に独特な形をしている。前肢には機能する指が二つ(第2と第3 指)しかなく、それにはひづめがあり、移動のためではなく毛繕いに使う。後肢は極端に大きな第4 指がひとつあるだけで、それには馬のひづめに似た小さな爪がある。
体も土を掘るのにうまく適合しており、簡単に土や石を動かして効率良く食料を見つけられるように、長い鼻口部と強い前肢を持つ。また、見通しの良い場所に生息する動物によく見られる特徴として、ブタアシバンディクートも6cm ほどのウサギのような長い耳を持ち、遠く離れた距離からでも捕食者に気づくことができたとされる。ブタアシバンディクートは、あらゆるバンディクートの中で最も尻尾が長く、その長さは頭胴長の半分以上あることも多い。
繁殖期は5 月から6 月にかけてで、雌には後ろ向きに口が開く袋、中には乳首が8 個ある。ほかの有袋類の大きさに比べて、この袋の大きさからブタアシバンディクートは最大でも同時に4 頭までしか子を育てないと推測される。通常は一回あたり2頭の子を生んでいたと考えられている。
野生下での目撃情報や、博物館にある標本の歯列や消化管構造の研究から、ブタアシバンディクートはトガリネズミのような食虫類種ではないとはっきり分かる。バッタやアリ、シロアリを食べたという報告もあるが、すべてのバンディクートの中で最も草食性の強い種であることは解剖による消化管内容物の分析によっても明白である。
ブタアシバンディクートは、オーストラリアの乾燥または半乾燥平原に生息した小さな地上性の有袋類であったが、その種の分布範囲は徐々に内陸の砂漠地域へと減少し、現在は絶滅種である。
絶滅の原因は明らかではないが、生息地の破壊により19 世紀半ばにはすでに深刻な減少傾向にあった。ブタアシバンディクートの標本は、1857 年に現地の人が入手した2 体のほかには、19 世紀後半にほんの数体が収集されただけであった。そのほとんどがビクトリア州の北西部であったが、南オーストラリア州や西オーストラリア州、ノーザンテリトリーの乾燥平原でも収集されている。そして20 世紀はじめに、バンディクートはビクトリア州と西オーストラリアの各地から姿を消した。1901 年に最後の確かな標本が収集された後、1926年の目撃情報が最後とされる。さらに1945 年までに、南オーストラリアからもその種が姿を消し、オーストラリア中部のほんのわずかな場所だけに生息しているとされた。アボリジニが伝えるところでは、ギブソン砂漠とオーストラリア西部のグレートサンディ砂漠で1950 年代まで生息していたとされている。その後確実に絶滅してしまったが、60 年の時を経て我がLOST ZOO のオセアニアエリアに、この希少動物を展示することができたのは幸甚なことである。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ