我がLOST ZOOが数ヶ月の時を経て新たに飼育展示を始めたのは、南米か らやってきたグリプトドンのペアである。まずもってほとんどの来園者諸氏が、巨大なカメの仲間であると思うに違いない。しかし実際には紛れもなく哺乳類であり、現生のアルマジロと非常に近い近縁種にあたる。全体にまん丸い形の骨ばった甲としゃがんだかのように見える手足が、グリプトドンをカメのように思わせる。この背中部分は、約1000枚からなる厚さ約2.5 cmの骨質のプレート状の鱗甲板で覆われている。
この鱗甲板は、グリプトドンの亜種ごとに特有のデザインパターンを構成する。これがグリプトドンのカメのような装甲に他ならない。しかし、一般的なカメの仲間とは異なり、彼らは頭を引っ込めることができない。その代わりに彼らは頭蓋骨を護る帽子があり、尻尾を護る輪っかがある。この尻尾はライバルへの縄張り争い、また異性へのセックス・アピールとしても用いられる。 捕食者に対する防御のためということもありながら、元来はその種間における争いのためという側面が強い。このグリプトドンの大きな甲羅を支えるのは並大抵の強度では済まない。
グリプトドンの全身骨格標本 (画像をクリックで拡大表示)
したがって、連結した椎骨、短くて太い四肢、および広い肩帯は決して驚くべきことではないのである。グリプトドンは頭部の形状にも特筆すべき要素がいくつかある。大きな下顎は、粗い繊維状の植物を餌として噛むための大きな咀嚼筋を支えている。
グリプトドンの博物画 (画像をクリックで拡大表示)
グリプトドンの歯はアルマジロの歯と一見似た様子だが、両側に深い溝がある。 また、頬の下の方に突き出た独特の棒状の骨が下顎まで伸びて、強力な鼻筋の筋肉を支えている。我がLOST ZOOで飼育するグリプトドンは体長3.3メートル、体高1.5メートル、重さ約1.400 kg。Glyptodontidae科の中の最大種であり、現生の種で比較するならばクロサイとほぼ同じ大きさと言えるでしょう。更新世には、グリプトドンは南米のサバンナに生息していた。
グリプトドンの甲羅標本 (画像をクリックで拡大表示)
その後、南北アメリカ大陸がパナマの火山性地峡の隆起によってひとつにつながったことで、グリプトドンはグアテマラまで及ぶ中央アメリカにまで生息地を広げた。およそ250万年前に北米大陸の南部地域にまで達していたと考えられる。その後おそらくは気候変動と人為的原因の両要素を受けて、グリプトドンは約12000年前に絶滅したと考えられている。
在りし日のグリプトドンイメージ図 (画像をクリックで拡大表示)
グリプトドンはその体型はもちろん融合した頚椎のせいで、地表に近いところで餌となる植物を探す必要がある。その頭蓋と下顎関節の構造からして、顎を左右に動かすことを制限されており解剖学的見地からも下草を食べる種であり、開けた草原のような環境により生息しやすいものと考えられる。我がLOST ZOOで主に与えられている餌も同様に地生する草や青草などである。自然の生息環境を鑑みるに川や湖のような水辺を好む グリプトドンだが、当園では来園者が間近で観察できるような特別な給餌場所を設計した。ぜひその大きさを観察していただきたい。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ