ガラパゴスコメネズミGalapagos rice rats

1929-1934年絶滅
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ガラパゴスコメネズミ
—ガラパゴスの希少な固有陸上哺乳類は進化の語部—

ガラパゴス諸島と南米大陸は物理的に隔絶されているため、ガラパゴス諸島では陸上哺乳類がほとんど存在しない。おそらく嵐などを受けて迷鳥のようにやってきたであろう2種のコウモリと、わずかな齧歯類のみである。そもそも人間がガラパゴス諸島に訪れる前から生息していた陸上哺乳類は齧歯類のコメネズミ(Cricetidae)のみであったと考えられている。
このように、隔絶された島において固有種が新たな環境に適応し進化を遂げるという事例は、世界中で見られる。『どうぶつのくに』読者のみなさんに近い環境からひとつ挙げるとすれば、沖縄におけるケナガネズミ(Diplothrix legata)は実にユニークな例であろう。本種のみでケナガネズミ属を構成し、他種との関係性など分類学上もまだ謎の多いネズミである。

18世紀に描かれたガラパゴスコメネズミ

18世紀に描かれたガラパゴスコメネズミ (画像をクリックで拡大表示)

さて、件のガラパゴスコメネズミたちは3属7種に分類されており、7つの島にそれぞれ1種づつが生息していたとされる。Nesoryzomysが5種、Megaoryzomysが1種、そしてAegialomysが1種(2亜種)という分類である。しかし、多くの船とともに自然と島に入り込んだクマネズミなどの外来種のネズミや、もちろん人間によってこのうちの4種はすでに絶滅してしまった。

チャールズ・ダーウィンの肖像画 近縁のアラゲコトンラット

チャールズ・ダーウィンの肖像画
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近縁のアラゲコトンラット
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ガラパゴスオニネズミ(Megaoryzomys curioi)はイザベラ島からサンタクルス島にかけて生息していた。体長は20cm以上で、ネズミとしてはかなり大きな種である。ヨーロッパからの移民とともに入り込んだ外来種と競合し、絶滅したと考えられている。Megaoryzomysと分類される唯一のどうぶつだった。世界中の歴史を紐解いてもこの種については詳細な記録がなく骨格の化石も新生代第四記以下の層からしか発見されていない。エルニーニョによる気候の変化と、野性化したイヌ、ネコ、ブタ、クマネズミなどが原因として比較的に近代に絶滅したものと考えられている。

ダーウィンが旅した「ビーグル号」 ケープライオンの剥製

ダーウィンが旅した「ビーグル号」
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ビーグル号の旅した足跡(地図上の赤いライン)
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ガラパゴスコメネズミ(Aegialomys galapagoensis)には2亜種あり、ひとつ(A.g.bauri)はフェルナンディナ島の乾燥した低木帯に生息し、もうひとつ(A.g.galapagoensis)はサン・クリストバル島に生息していた。サン・クリストバル島の亜種については、チャールズ・ダーウィンがビーグル号での航海でサンプルを多数捕獲していることから、1855年頃には生息数も安定していたと考えられるが、その後間もなく絶滅したと考えられる。それ以降本種についての記録は1984年に火山の溶岩洞で化石として発見されたのみである。本種にもっとも近い種は南アメリカ大陸のエクアドルとペルーに生息するキイロコメネズミ(Aegialomys xanthaeolus)であり、これは本属のどうぶつとして現在唯一の存在とされている。

フェルナンディナ島の風景 沖縄の固有種、ケナガネズミ

フェルナンディナ島の風景
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沖縄の固有種、ケナガネズミ
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ダーウィンハツカネズミ(Nesoryzomys darwini)はシナモンのような茶色の体で、サンタクルス島に生息していたネズミである。体長は20.4-22.2cmで、尻尾は体長よりやや短い16-7cmほど。夜行性で低木の下の洞穴や石の隙間に巣を作っていた。1929年に4個体が捕獲されたもの以外に生体資料は存在せず、1930年以降は完全に絶滅したものとされている。絶滅した原因は外来種のドブネズミやクマネズミとの生存競争に負けたか、それらの種からの感染症だとされている。なお、同属で絶滅した別種のサンタクルスコメネズミ(Nesoryzomys indefessus)はサンタクルス島とバルトラ島にも生息していた。この種はダーウィンハツカネズミより大きく、体長が30cm近く、尻尾は10.8-11.7cmだった。サンタクルスコメネズミが最後に目撃されたのは1934年であり、その後まもなく確実に絶滅したと考えられている。原因はこれも外来種によるものだろう。

LOST ZOO ガラパゴスコメネズミの放飼場風景

LOST ZOOガラパゴスコメネズミの放飼場風景
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ガラパゴスコメネズミは当園で他のどうぶつたちに比べると決して大きくはなく、迫力こそないものの、我がLOSTZOOではこのガラパゴス由来の稀少な齧歯類を飼育できることを大変喜ばしく思っている。彼らは環境による進化、自然選択と順応に関してこの上なく素晴らしい例なのである。当園では本種を大きなガラス張りの室内展示場で飼育をおこなっている。ここはいわゆる夜行性のどうぶつを集めた昼夜逆転の放飼場であり、来園者の皆さんが訪れる時間帯でも彼らが元気に活動している姿が暗闇の中でもしっかりとご覧いただけるように工夫してある。ひと味違った展示をお楽しみいただきたい。

LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ

ガラパゴスコメネズミ