サイウォンバットRhino wombat

26000年前絶滅
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サイウォンバット、その巨大なる体躯に驚愕せよ

オーストラリアに生息する多くの有袋類たちと、他の大陸に生息する有袋類でない生物たちの間にはいわゆる「平行進化」の跡が見受けられる。非常にしばしば、両者は類似した生活環境に対して同じように順応してきたということである。生物学的かつ行動学的な共通点がそれを物語っている。
ウォンバットは、有袋類とそうでない生物が平行進化を遂げたことを説明する実に佳き一例である。具体的にはウォンバットとビーバーはどちらもげっ歯類のような歯とともに独特な食性を持つという点で酷似しており、これは他の有袋類にはない特徴でもある。ウォンバットの前歯は上下に1対のみで、歯根はないが一生伸び続ける。

サイウォンバットの骨格標本パース歴史自然博物館所蔵 サイウォンバットの歯標本ナチュラリス生物多様性センター所蔵

サイウォンバットの骨格標本
パース自然史博物館
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サイウォンバットの歯標本
ライデン自然史博物館
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また一方でポッサムやコアラなどの有袋類との共通点も多く、特にコアラとはよく似ていると言える。さしずめ陸上型のコアラ、見た目としてはオーストラリア固有のクマとでも言ったところだろうか。しかしながらウォンバットはコアラや他の有袋類に比較してもかなり独特な進化を遂げてきたため、生物学者・動物園学者としてはそれ相当の独立した分類が必要であると言わざるを得ない。現生の3種のウォンバットは夜行性で、日中は大きな巣穴で寝て過ごす。巣穴は腹這いの体勢から前足で土を後ろに飛ばすようにして掘り進める。体長70-120cm、体重は20-40kgで大型有袋類に分類される。
しかしその先祖の姿に比較すると、現代のウォンバットはとても小さい。更新世の有袋類最大の巨大草食動物であったサイウォンバットこそがウォンバットの先祖である。サイウォンバットは最大で体長3m、肩高2m、体重は2790kgほどにもなるサイのような大きさだった。足はウォンバットと同じく足が内側に向くいわゆる内股で、前足には硬い爪を持ち、育児嚢も後ろ向きである。残された足跡から判断するに足は毛で覆われていて、おそらく現生のウォンバットと同じような毛並みをしていただろうと考えられる。

ケープライオンの剥製 レンブラントの描いたケープライオン

サイウォンバット、ジャイアントウォンバット、現生のウォンバットの骨格比較
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19世紀に描かれたオーストラリアの古地図
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サイウォンバットは深い森林というよりは開けた茂みやサバンナのようなエリアに生息することが多く、水場から遠く離れることはほとんどなかった。集団で行動したと考えられていて、主に葉、枝、樹皮、根、そしてオカヒジキなどのアマランサスが主食だったようである。恐らく毎日150kgほどの植物を餌に必要としていただろう。天敵は体長7m、体重1600-1900kgにも及ぶオオトカゲ、メガナリアだったと考えられている。
サイウォンバットは26000年前から存在しており、最初にオーストラリアへ人間がたどり着いた時点ではまだそこにいた計算である。そして人間がオーストラリアに到着して間もなく絶滅したであろうと考えられている。単純に考えれば、サイウォンバットはその巨体に対してまったく警戒心のないどうぶつだったことが彼らを絶滅に追いやった要因のひとつだろう。むろん生息環境や生態系が破壊されたことも、サイウォンバットの巨大な体躯には特に多大な影響を与える要因になり得たはずである。オーストラリアの原住民アボリジニたちは焼き畑農業を行いながら開拓を進めた。森林や茂みを焼き払いながらより人間にとって快適でコントロールしやすい形での農地と生活環境の開拓を進めつつ、結果生息地を追われたどうぶつたちを狩猟の対象としていった。言うまでもないことであるが、自然環境とその生態系が急激に変わらぬはずがなかった。

ケープタウンにある「ライオンヘッド山」

切手や銀貨にデザインされたサイウォンバット (画像をクリックで拡大表示)

ケープタウンにある「ライオンヘッド山」

ウォンバットの剥製と骨格標本 池田市五月山動物園所蔵 (画像をクリックで拡大表示)

サイウォンバットは現生のウォンバットたちの祖先であるが、より直近の祖先として原始的なウォンバットとも言えるジャイアントウォンバット(Phascolonus gigas)の存在が知られる。ジャイアントウォンバットはサイウォンバットよりは遥かに小さかったとは言え、それでも200kgほどの体重があり現生のウォンバットと比べるとその名の通り本当に巨人のようなものである。しかし、その大きさ以外の解剖学的・生物学的な特徴は現生ウォンバット3種とほとんど変わらない。実はこのジャイアントウォンバットはサイウォンバットとすら同じ時代に生息しており、恐らく同じ原因で多くのオーストラリアに生息していた巨大などうぶつたちと共に絶滅したと考えられている。

ノヴォシビルスク動物園で飼育されているライオン

LOST ZOOのサイウォンバットの放飼場風景
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多くのサイウォンバットとジャイアントウォンバットの骨格化石が見つかっているものの、古代オーストラリアの原住民以外にその生きた姿を見たことのある人間はいない。その為、クイーンズランド由来のサイウォンバットを我がLOSTZOOで展示するということはとても衝撃的なニュースとして世界を駆け巡ることだろう。園内のオーストラリアエリアで、現生種であるタスマニアウォンバットのすぐそばでその姿を比較しながらご覧いただけるようにしてある。この貴重で巨大などうぶつを見逃す手はない。

LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ

サイウォンバット