我がLOSTZOO にやってきた新しい仲間オークランドアイサのペアはこれまでどの動物園でも飼育されたことのないどうぶつである。アイサとはアイサ亜科(Merginae) に分類される魚食性の海ガモ。獲物をしっかりつかむ為にくちばしの端が鋸状になっている。“sawbill(鋸くちばし)”というニックネームにも頷ける。採食のために上手に潜水することから“diver” の異名もとる。魚類以外に軟体動物、甲殻類、昆虫類、両生類も餌とする。
オークランドアイサの剥製 ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワ所蔵
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分類学的に諸説あれど、アイサ属(Mergus)は5-7 種に分類される。アイサは潜水が得意なホオジロガモ属(Bucephala)にとても似ていて、アイサとホオジロガモ (Bucephala clangula) やヒメハジロ (Bucephala albeola) の混雑種が野生でも見受けられる。アイサは分類学的には海鳥だが、ほとんどは川岸を好みウミアイサ(M. serrator) のみが海でよく見られる。なお、南米の東にくらすクロアイサ(M. octosetaceus) とニュージーランドのオークランドアイサ(M.australis) 以外のアイサはすべて北半球に生息しているのである。
オークランドアイサは日本にも生息するウミアイサと同じぐらいの大きさだが、くちばしがより長く、アイサ全体の中で最も長い。オスの頭・飾り羽・首は濃い赤茶色で背中・肩・尾は青黒く、羽は灰色。メスはオスより少し小さく、飾り羽が短い。主にガラクシアス(キュウリウオ)の一種など小さな魚類や、水生無脊椎生物を餌とする。オークランドアイサは潜水には優れているが、短い翼のせいで飛行は得意ではなく、追われた時は岩の間に逃げ込み隠れる方が得意である。オークランドアイサのペアは一年を通して一緒に生活し繁殖期は11-12 月で通常は卵を5 個産む。
化石記録によるとオークランドアイサはオークランド諸島だけでなく、ニュージーランドの本土である北島と南島、スチュアート島にも生息していたことが判っている。この種は20 世紀初頭に絶滅した。現住民のマオリ族が現在のニュージーランドにあたる島々を開拓していた頃から、オークランドアイサは大きな狩猟圧により数を激減させていた。それゆえオークランドアイサはヨーロッパ人たちが19 世紀にニュージーランドにたどり着いたころには亜南極地域のオークランド諸島で見られた一定数を除くと、既にニュージーランドの殆どの地域で絶滅していたのである。そんな中、1840 年にオークランドアイサはデュモン・デュルヴィルの探検中に採取され、1841 年に新種として記載されたものである。環境の変化と1850 年以降のブタ、ウシ、ネコなどの大型の哺乳類の持ち込み、そして博物館展示のための採取(25 羽)によりオークランドアイサは絶滅した。1902年1月に最後のオークランドアイサのペアが大英博物館での保管用に射殺された。その後、この種の目撃例はなく絶滅したと考えられている。
現在、世界中の自然史博物館では全体で23 体(オス11、メス12)の皮膚標本が存在し、うち4 体はメスの完全な剥製として保管されている。博物館におけるこの種の標本資料の貴重さからみても、我がLOSTZOO でオークランドアイサを飼育できるのは驚くべき事実と言えるだろう。この色鮮やかで稀少な鳥を動物園としては世界で初めて展示できるということを誇りに感じている。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ